東京駅八重洲口・再開発ビルの大事故に心理的介入は?

心が泣いている

代表の木下芳美です。今回は、職場のクライシス場面について書きました。

東京駅八重洲口ビル建設現場の大事故

東京駅八重洲のビル建設現場で、痛ましい大事故が起きてしまいました。亡くなったお二人が、その瞬間どんな思いをされていたのでしょうか。大けがをされた方は、体だけでなく、心の大きな傷を負われています。さらに、同じ現場に居合わせた方々、職場で仲の良かった方々、たまたま近くを通りかかられた方など、相当な人数の方が、今回の件で心理的なダメージを受けているでしょう。そして、ご家族の胸中を思うと、いたたまれません。

職場のクライシスへの介入

働く方々のメンタルヘルス支援では、職場での事故や従業員さんの自死が起きたりすると、緊急介入することがあります。これまでの経験や介入事例の学習から、こんな対応をしていただきたいと考えていることをお伝えします。

そもそも、こうした緊急事態における心理的支援の必要性を、組織のトップや人事関連部署の方で、ご存知ない場合もあります。災害時や、子供たちが被害に遭った場合の「心のケア」は、ある程度浸透していると感じますが。

組織として、してはいけないこと

まず、起こったことを隠蔽するのはご法度です。伝え方も、ぼんやり、ざっくり、ふわっとではなく、明確に、起きた事実、今時点でわかっていることはここまで、と情報共有しましょう。

特に自死の場合、言葉を濁したり、隠したり、急死と伝えても、どこかから噂が広まることが多いです。従業員さんは、組織、経営者、上司への不信感を募らせ、「知られると都合が悪いことがあるから伏せているんだ」と疑心暗鬼になります。

組織への不信感が生まれると、日ごろからの不平不満が爆発し、離職者が出ることもあります。

同僚が自死したのに、会社からは何も伝えられず、職場でも話題にすることが憚られるムードがあると、「自分の言った一言が引きがねになったのではないか」と自責感に苦しむ人も出てきます。

組織として、何をしたらよいのか

次に、具体的な介入方法ですが、ハイリスクの方たちには、個別でのカウンセリングをお勧めします。ハイリスクとは、事故現場に一緒にいた方、自分のケガを負った方、被害者の救出に手を貸した方、あるいは、自死の第一発見者などです。また、上長にあたる人、ちょうど被害者や亡くなった方に強く指導をしたばかりの方、一緒のチームで協力して働いていた方、もともと親しくしていた同期なども、ハイリスクに入るでしょう。

グループミーティングを行うのも効果的です。クライシス介入の訓練を受けている心理職がファシリテートを行い、事故が起きた時のことや、亡くなった方のことを語り合います。この語らいの中で、それぞれが抱く罪の意識を吐露することができたり、互いが断片的に持っている情報が集まったりして、この出来事をどうとらえたらよいのか、理解のガイドになります。

従業員さんたちは、組織がこの出来事に真剣に向き合おうとしているのだと理解できるので、ロイヤリティの高まりにも繋がります。危機介入の方法を間違えないことは、本当に大事です。

限られた予算や時間の中で、無暗に「とりあえず皆にカウンセリング」という方法よりは、掛けるべきところにエネルギーやコストを掛けるのがよいでしょう。もし、保健師さんがいる組織であれば、事前に聞き取りをしてもらい、心配な人をリストアップする方法も取れます。

労働者健康福祉機構の資料が2005年のもので、古くはありますが、参考になると思いますのでご覧下さい。

今回のクライシスにどういうアクションが行われるのか

今回の八重洲口の現場は、大林組と大成建設が共同企業体として、施行していたそうです。その2社だけでなく、現場に関わるたくさんの企業さんがあることは想像できます。大林組か大成建設が主導となって、このクライシス、惨事ストレスへの対応をしているのかどうか・・・。何らかの介入を開始していることを願わないではいられません。

心理職にも訓練が必要

産業領域に携わる心理職には、いつ起きるとも限らない労働災害や従業員の自死など、危機対応の力を養っておく必要を感じます。

個人のカウンセリングもグループミーティングも、心理職なら誰でもできるわけではないのですから。

私もその学びを継続して、錆び付かないようにし、職場のクライシスなど起きない方がよいのですが、いざという時に備えています。