精神障害の労災認定基準が変わったのをご存知ですか?

精神障害の労災認定基準の改正

代表の木下芳美です。今回は、精神障害の労災認定について書きました。

●精神障害の労災認定基準の改正

2023年9月1日付で厚生労働省より「心理的負荷による精神障害の認定基準について」という通達が出され、改正が明らかになりました。

背景には、「労働施策総合推進法」の改正で、大企業は2020年6月1日から、中小企業は2022年4月1日から、職場におけるパワーハラスメントの防止措置が義務付けされたこと、新型コロナウィルス感染症があります。社会情勢の変化に沿った基準になったと言えます。

心理的負荷による精神障害の認定基準概要

●今回の変更点

こんな点が変わったようです。

・具体的出来事に、「カスタマーハラスメント」と「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」の2つが追加

・パワハラの6類型すべての具体例の明記など、心理的負荷の強度が「強」「中」「弱」となる具体例を拡充

・精神障害悪化前6か月以内に「特別な出来事」がなくても、「業務による強い心理的負荷」により悪化した部分について、業務起因性を認めるよう範囲を拡大

・医学意見の収集方法を専門医3名から1名の決定に効率化

詳細は厚労省のHPをご覧下さい。

●労災認定のデータ

ところで、どれくらいのケースの精神障害が労災と認定されているのかご存知でしょうか。

私が、厚生労働省のデータをまとめ始めたのが2002年からなのですが、下のグラフを見ると明らかに右肩上がりで、年々増加しているのがわかります。

精神障害等に係る労災補償状況

また、厚生労働省が公表した下の表を見れば、そもそも請求件数が、毎年増加していルのがわかります。当然、認定件数もそれにつれ増加します。ただ、令和4年度の特徴は、認定率がやや上昇していることです。

精神障害に関する事案の労災補償状況

●労災請求にはエネルギーが必要

さて、カウンセリングの現場で、「自分の病気は労災なんじゃないか?」と考える方は一定数いらっしゃる実感はあります。ただ、実際に労災の請求をする方は、かなり限られた人数だと感じます。

おそらく、請求に至らないのは、手続きに、相当な知力、体力、精神力が必要だからでしょう。心の病気の治療中ですから、複雑で、しかも初めてのことに取り組むパワーが湧いてこないのは当然。踏み切るのは難しかろうと思います。

また、弁護士さんにお願いすると、その費用もかかってきます。経済的な負担が増すのは、不安にもつながり、決心も付かないでしょう。

そして、仮に請求しても認定されず、なお諦めないと決めたら、審査請求、再審査請求、行政処分取消訴訟と進むことになります。そのために、新たに資料を集めたり、過去に関わりのあった人にコンタクトを取ったり、ほんとうに大変です。そこまでの覚悟を持って臨むのは並大抵のことではないです。

●カウンセラーとしての思い

カウンセリングで労災が話題になった場合、クライエントさんが、ご自身の納得が行くような結論を出せるのが一番とは思います。同時に、困難な道を選ばれたには、無理しないでほしいという思いはどうしても出てきます。

手続きのために睡眠時間を削ってパソコン作業をしたり、嫌な思い出に触れたり、弁護士さんとの打ち合わせで疲労困憊したり、心身の健康悪化の要因が、あまりにも多いからです。その中で、自殺念慮が強くなる場合もあり、どうか・・・と祈りにも近い思いで、カウンセリングの終了時間を迎えることもあります。

しかし、今回の認定基準の見直しや、請求件数の増加だけなく認定率も上昇している現状を見ると、今後、病気治療中でも請求してみようと思う方が増える可能性があります。

もし、それをお考えになるのなら、実務的なサポートをしてくれる弁護士さんだけでなく、カウンセラーも活用し、心理的なサポートを受けるようにしていただきたい思いです。

●心理的負荷評価表を見てみると

心理的負荷評価表」が見られるURLをリンクしましたが、このPDFの下の方を見てみてください。

「業務による心理的負荷評価表」と「業務以外の心理的負荷評価表」の両方が見られます。

企業さんにとっては、これが精神的負荷になり、強度がこれくらいなのだと示されているので、業務上で気を付けなければならないポイントがわかります。職場のメンタルヘルスやハラスメント対策に反映してもらえると思います。

働く人にとっては、自分が置かれている現状で、どれほど自分に心理的負荷がかかっているのかを知る手立てともなります。自分の精神的健康のリスクはどれくらいなのかを、これをもとに理解してもらいたいです。

この心理的負荷評価表は、そういう意味で、労災の請求をするかしないかという時だけ使うものではないのかもしれません。

日頃から労使双方に、こういうことに気を付けようとか、今ストレスがかかっているんだ、という気づきをくれるものとして活用していいのではないでしょうか。